1線地絡事故の計算において、受験生を最も悩ませるのが「零相等価回路」の描き方です。正相や逆相の回路は平常時と同じように線を繋ぐだけですが、零相回路だけは「変圧器の結線方式」によって線の繋がり方がパズルのように変化します。
今回は、この複雑なルールを丸暗記するのではなく、信号のルーティングやシーケンス制御における「スイッチ(接点)」の開閉条件として捉え直すことで、誰でも確実に等価回路を描けるようになる方法を解説します。
1. 零相電流の性質と「大地」という共通ルート
まず大前提として、零相電流 I0 は「3相すべてが同じ向きに進む電流」です。行き場を失った電流は、必ず「大地(アース)」を通って電源(発電機や変圧器の中性点)に帰ろうとします。
つまり、零相等価回路を描くということは、「事故点から大地を通って、電流が元の場所へ帰れるルートが物理的に繋がっているか?」を回路図上で確認する作業(デバッグ)に他なりません。
2. 結線方式は「3種類のスイッチ」
変圧器の一次側・二次側の結線方式は、零相電流の通り道を決める「スイッチ」として機能します。以下の3つのルールだけを自分の中にインストールしてください。
ルール1:Y結線・中性点接地あり( Yg )
中性点が大地にしっかり繋がっている状態です。零相電流はここを通って大地(基準となる母線)へ抜けることができます。
回路図上の扱い:スイッチON(導通)。変圧器の端子から、大地(基準となる母線)に向かって線を繋ぎます。
ルール2:Y結線・中性点接地なし( Y )
大地への接続がないため、零相電流は行き止まりになります。
回路図上の扱い:スイッチOFF(断線)。線をどこにも繋がず、オープンな状態にしておきます。
ルール3:Δ結線( デルタ )
Δ結線の中では、零相電流はぐるぐるとループ(循環)するだけで、外の電線には出ていきません。
回路図上の扱い:その場で大地にショートさせ、先のルートを断ち切る。変圧器のインピーダンスを経由した後、大地(基準線)に繋ぎますが、そこから先の電線路へは線を繋ぎません。
3. 【演習問題】実際の単線結線図から等価回路を描く
それでは、よく試験に出題される代表的なパターンで実際に回路を描いてみましょう。
【問題設定:Yg-Δ結線の変圧器】
発電機(G)に、一次側がΔ結線、二次側が中性点直接接地のY結線(Yg)となっている変圧器(T)が繋がっています。変圧器の二次側の先にある送電線の末端(事故点F)で1線地絡事故が起きました。
このシステムの零相等価回路を描いてください。
構成: 発電機(G) ー [Δ – 変圧器(T) – Yg] ーー 送電線 ーー 事故点(F)
【ステップバイステップの作図プロセス】
ステップ1:基準となる「大地の線」を引く
まずは用紙の下部に、横にスッと1本の長い直線を引きます。これが零相電流の帰り道となる「大地(基準母線)」です。
ステップ2:事故点(F)からスタートする
事故点Fから零相電流が大地に流れ込むため、上から下の大地(基準母線)に向かって線を下ろします。
ステップ3:事故点から電源に向かって遡る
事故点から送電線を遡ります。送電線の零相インピーダンス %Z0_L を四角い箱で描き込みます。
ステップ4:変圧器(T)の「二次側(Yg)」を処理する
送電線を遡ると、変圧器の二次側(事故点に近い方)にぶつかります。ここは「Yg(中性点接地あり)」です。
ルール1に従い、ここは「導通」です。そのまま変圧器のインピーダンス %Z0_T の箱へ線を繋ぎます。
ステップ5:変圧器(T)の「一次側(Δ)」を処理する
変圧器のインピーダンスを通過すると、一次側(発電機に近い方)に出ます。ここは「Δ結線」です。
ルール3に従い、ここで「大地へショートさせ、先のルートを断ち切る」処理を行います。線を下の大地(基準母線)に繋いでループを完成させます。そして、そこから先の発電機へ向かう横の線は描きません(断線させます)。
ステップ6:発電機(G)の処理
変圧器のΔ結線によってルートが遮断されたため、発電機の零相インピーダンスは今回の地絡電流の計算には全く無関係となります。回路図には描かなくてOKです。(描くとしても、どこにも繋がっていない浮いた状態で描きます)。
4. 演習のまとめと合成インピーダンスの計算
上記の手順により完成した零相等価回路は、「送電線の %Z0_L」と「変圧器の %Z0_T」が直列に繋がり、そのまま大地へ帰っていく非常にシンプルな閉回路になります。
したがって、このシステムにおける零相の合成インピーダンス %Z0 は以下のようになります。
$$\%Z_0 = \%Z0_L + \%Z0_T$$
変圧器の結線がスイッチの役割を果たし、発電機側のインピーダンスを見事に切り離してくれました。シーケンス図のロジックを読み解くように、電流の流れるルート(導通・非導通)を追いかける感覚が掴めれば、どんなに複雑な系統図が出題されてもパズルのように解き明かすことができます。

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