ここまで学んできた「%Zの基準容量変換」「対称座標法の3つの回路」「変圧器結線による零相回路の変化」というすべての知識を総動員して、実際の試験レベルの1線地絡計算を最後まで解ききりましょう。
1. 【問題設定】
以下の電力系統において、送電線の末端(事故点F)で1線地絡事故が発生しました。
システム全体の基準容量を 100MVA として、事故点に流れる地絡電流 Ig (kA) を求めてください。
【系統構成】
発電機(G) ー 変圧器(T) ーー 送電線(L) ーー 事故点(F)
【各機器のパラメータ】
・発電機(G):自己容量 50MVA、%Z1 = 10%、%Z2 = 10%
・変圧器(T):自己容量 50MVA、%Z1 = 5%、%Z2 = 5%、%Z0 = 5%
(結線方式:一次側がΔ結線、二次側が中性点直接接地のY結線)
・送電線(L):100MVA基準で %Z1 = 10%、%Z2 = 10%、%Z0 = 30%
・送電線の公称電圧: 66kV
2. 【解答プロセス】
ステップ1:すべての機器を 100MVA 基準に変換する
まず、自己容量が 50MVA の発電機と変圧器を、基準容量の 100MVA にスケーリングします。
発電機(G)の変換:
%Z1_G = 10 × ( 100 / 50 ) = 20%
%Z2_G = 10 × ( 100 / 50 ) = 20%
変圧器(T)の変換:
%Z1_T = 5 × ( 100 / 50 ) = 10%
%Z2_T = 5 × ( 100 / 50 ) = 10%
%Z0_T = 5 × ( 100 / 50 ) = 10%
送電線(L)はすでに 100MVA 基準なのでそのまま使います。
ステップ2:正相・逆相・零相の合成インピーダンスを求める
ここから、対称座標法の3つの仮想回路ごとの合計 %Z を計算します。直列回路なので足し算です。
【正相インピーダンス %Z1】
平常時と同じルートなので、G、T、L をすべて足します。
%Z1 = 20 + 10 + 10 = 40%
【逆相インピーダンス %Z2】
正相と同じルートで計算します。
%Z2 = 20 + 10 + 10 = 40%
【零相インピーダンス %Z0】※ここが最大のポイント!
前回の記事で学んだ通り、変圧器が「一次側Δ、二次側Yg」です。
事故点から送電線を遡ってきた零相電流は、変圧器のYg(接地あり)を通って中に入りますが、一次側のΔ結線で行き止まり(大地へショート)となり、発電機側へは抜けられません。
したがって、発電機のインピーダンスは無視され、変圧器と送電線の分だけを足し合わせます。
%Z0 = 10(変圧器) + 30(送電線) = 40%
ステップ3:基準電流 In を計算する
短絡容量ではなく実際の「電流値」を求めるため、事故点(66kV)における 100MVA 分の基準電流 In を計算します。三相交流の電力公式 P = √3 × V × I を変形します。
$$I_n = \frac{100 \times 10^3}{\sqrt{3} \times 66}$$
※ここでは 100MVA を 100×10^3 kVA として、結果が kA(キロアンペア)になるように単位を調整しています。
$$I_n \approx 0.875 \text{ kA}$$
ステップ4:1線地絡電流 Ig を算出する
いよいよ最後の計算です。
1線地絡事故では、正相・逆相・零相の3つの回路が「直列」に繋がるため、合成インピーダンスはすべてを足し合わせた ( %Z1 + %Z2 + %Z0 ) になります。
ここに流れ込む零相電流 I0 は、基本公式に当てはめると以下のようになります。
$$I_0 = I_n \times \frac{100}{\%Z_1 + \%Z_2 + \%Z_0}$$
分母の合成インピーダンスは 40 + 40 + 40 = 120% です。
$$I_0 = 0.875 \times \frac{100}{120} \approx 0.729 \text{ kA}$$
そして、私たちが本当に知りたい実際の地絡電流 Ig は、この零相電流の3倍になります。
$$I_g = 3 \times I_0$$
$$I_g = 3 \times 0.729 = 2.187 \text{ kA}$$
解答: 1線地絡電流 Ig は 約 2.19 kA
3. 総括
いかがでしたでしょうか。
一見すると手も足も出ないような複雑な故障計算も、
- 基準を統一する
- ΔやYgの結線を見て、無視する機器を決める
- 各相のインピーダンスを足す
- 公式に当てはめる
という、完全にパターン化された作業(アルゴリズム)に落とし込めることがお分かりいただけたと思います。

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