前回の記事では、送電線の電圧降下を求める強力な近似式「 (PR + QX) / Vr 」を解説しました。
今回は、この公式を実務や試験問題でどう使うのかという「応用編」です。工場などの負荷が稼働・停止すると、それに伴って有効電力 P と無効電力 Q が変化し、受電端の電圧が変動してしまいます。
この電圧変動という「外乱」に対して、電圧を一定の目標値(セットポイント)に保つために投入されるのが、電力用コンデンサなどの「調相設備」です。今回は、電圧を維持するために必要なコンデンサ容量 Qc を導き出す計算プロセスを解説します。
1. 調相設備(コンデンサ)の役割とは?
負荷が増えると、P と Q の両方が増加するため、公式通りに電圧降下は大きくなり、受電端の電圧 Vr は下がってしまいます。
しかし、電線の抵抗 R やリアクタンス X を工事で変えることはできません。そこで、受電端にコンデンサを並列に接続します。
コンデンサは「進み無効電力 Qc」を発生させる機器です。これを投入することで、負荷が要求する「遅れ無効電力 Q」を相殺(キャンセル)し、送電線を通ってくる無効電力を減らすことができます。
つまり、コンデンサ投入後の見かけの無効電力は ( Q – Qc ) となり、この Qc の大きさを調整することで電圧降下幅をコントロールする、というのが調相設備のメカニズムです。
2. 「電圧を維持する」とはどういう状態か?
試験問題で最も頻出なのが、「負荷が増加する前と後で、受電端電圧 Vr を同じ値に維持したい」というパターンです。
送電端電圧 Vs は常に一定であると仮定すると、Vr を維持するということは、すなわち「負荷増加前と負荷増加後で、電圧降下 ΔV を同じ値にする」という条件に言い換えることができます。
これを、前回の近似式を使って数式化してみましょう。
・状態1(負荷増加前):有効電力を P1、無効電力を Q1 とします。
・状態2(負荷増加後):有効電力を P2、無効電力を Q2、投入するコンデンサの容量を Qc とします。
それぞれの状態の電圧降下が等しくなればよいので、以下の方程式が成り立ちます。
$$\frac{P_1 R + Q_1 X}{V_r} = \frac{P_2 R + (Q_2 – Q_c) X}{V_r}$$
これが、調相設備の容量計算における絶対的な基本条件式になります。
3. コンデンサ容量 Qc の導出
先ほどの方程式から、必要なコンデンサ容量 Qc を求めてみましょう。
両辺の分母にある Vr は共通なので、そのまま消去できます。
$$P_1 R + Q_1 X = P_2 R + (Q_2 – Q_c) X$$
右辺の X を展開します。
$$P_1 R + Q_1 X = P_2 R + Q_2 X – Q_c X$$
私たちが知りたいのは Qc なので、Qc を含む項を左辺に、それ以外を右辺にまとめます。
$$Q_c X = P_2 R – P_1 R + Q_2 X – Q_1 X$$
R と X でそれぞれくくって整理します。
$$Q_c X = (P_2 – P_1) R + (Q_2 – Q_1) X$$
最後に両辺を X で割ると、必要なコンデンサ容量 Qc を求める公式が完成します。
$$Q_c = \frac{R}{X} (P_2 – P_1) + (Q_2 – Q_1)$$
4. 公式の暗記は不要!その場で作れる
参考書によっては、この最終的な Qc の公式がポンと載っていることがありますが、これを丸暗記するのは危険です。「P1 と P2 が逆だったか?」「R と X の分数はどちらが上だったか?」と、本番の緊張感の中で必ず迷うからです。
大切なのは、ステップ2で立てた「増える前の電圧降下 = 増えた後の電圧降下」という最初の方程式です。
ΔV1 = ΔV2
ここからスタートして、先ほどの数行の移項作業をその場で行えば、絶対に間違えることなく Qc を導き出すことができます。システム制御において、外乱(PやQの増加)に対して、操作量(Qc)をどれだけ入れれば目標値(ΔV一定)を維持できるか、というフィードバックの式を立てるのと同じ感覚ですね。
まとめ:調相設備問題のアルゴリズム
- 負荷変動前の P1、Q1 を計算する。(皮相電力と力率から求めることが多いです)
- 負荷変動後の P2、Q2 を計算する。
- 「 ΔV1 = ΔV2 」の方程式を立てる。
- 方程式を展開して Qc について解く。

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