計算を進める中で、誰もが一度は「進み電力なのに、なぜ数式ではマイナスで引くのか?」という疑問にぶつかります。結論から言うと、これは「遅れ無効電力を正(プラス)」として定義している、電力系統計算の標準的なルールに基づいています。
この符号の扱いを整理することで、ケアレスミスを防ぎ、より深く計算の構造を理解できるようになります。
1. 「遅れ」を基準にする電力界のルール
電力系統(送電線やモーターなどの負荷)の多くは、コイル成分(誘導性)を持っています。そのため、現場の計算では「遅れ無効電力」が発生するのが常です。
そこで、計算の利便性を高めるために、以下の定義が一般的に使われています。
・遅れ無効電力(感性): +(プラス)
・進み無効電力(容性): -(マイナス)
つまり、コンデンサを投入して「進み電力 Qc を加える」ということは、数式の上では「遅れ成分をマイナス(削減)する」という処理になります。
2. ベクトル図と数式のリンク
前回の電圧降下の近似式を思い出してみましょう。
$$\Delta V \approx \frac{PR + QX}{V_r}$$
この式の Q は、負荷が消費する「遅れ無効電力」を指しています。ここにコンデンサを投入すると、全体の無効電力は以下のように変化します。
・もともとの無効電力: Q
・コンデンサによる相殺分: -Qc
・合成後の無効電力: Q - Qc
この「 Q - Qc 」という形は、コンデンサが負荷の遅れ成分を打ち消し、送電線に流れるトータルの無効電流を減らしている状態を正確に表しています。もし Qc をプラスで足してしまうと、逆に無効電力が増えてしまい、電圧降下がさらに悪化するという矛盾した計算結果になってしまいます。
3. 「進みは正」という直感との折り合い
数学や物理の授業では、進み(反時計回りの回転)を正として扱うことが多いため、違和感を感じるのは当然です。しかし、電験の計算においては、以下のように脳内変換しておくとスムーズです。
・「コンデンサの容量自体(スペック)」は正の値(例:10Mvar)
・「系統に与える影響」は、遅れ成分に対するマイナス演算
エンジニアリングの視点で見れば、これは「外乱(遅れQ)に対して、逆相関の操作量(進みQc)を与えて、偏差(電圧降下)をゼロに近づける」という引き算の制御プロセスそのものです。
4. まとめ:符号ミスを防ぐ考え方
試験問題で式を立てる際は、以下のイメージを徹底してください。
- 公式の Q は「遅れ」がデフォルトである。
- コンデンサは、その「遅れ」を減らす「消しゴム」のような存在である。
- したがって、数式では必ず 「 (Q – Qc) 」 という引き算の形になる。
この「引き算の論理」が定着すれば、電圧調整の問題で符号を逆にするミスはなくなります。

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