前回の記事では、三相がバランス良く短絡する事故(三相短絡)を想定し、システム全体を %Z に統一して計算する基礎を学びました。
しかし、実際の試験で最も頻出かつ受験生を苦しめるのは「1線地絡事故」です。1本の線だけが地面に落ちるため、三相のバランス(平衡状態)が完全に崩れてしまいます。
この不平衡で複雑な状態を、計算可能な綺麗な状態に分解する魔法のフィルターが「対称座標法」です。今回は、不平衡な事故回路を「正相」「逆相」「零相」という3つのシンプルな等価回路に描き直すルールを解説します。
1. 対称座標法の3つの成分とは?
対称座標法では、どんなにバランスの崩れた事故状態でも、以下の3つの「完全にバランスの取れた仮想的な回路」の重ね合わせとして表現します。
- 正相(せいそう)成分:平常時と同じように、綺麗なバランスで時計回りに回転する成分。
- 逆相(ぎゃくそう)成分:正相とは逆回転(反時計回り)する成分。事故などで不平衡になった時だけ現れます。
- 零相(れいそう)成分:三相すべてが同じ大きさ・同じ位相で動く成分。大地を帰路とするため、地絡事故の時にだけ現れるのが最大の特徴です。
これら3つの回路(正相回路、逆相回路、零相回路)を別々に描き、それぞれの合成インピーダンス( %Z1, %Z2, %Z0 )を求めることが、地絡計算の最初のステップになります。
2. 各等価回路の描き方のルール
それぞれの回路を描く際のルールは非常にシンプルです。単線結線図から、以下のルールに従って3つの回路を書き起こします。
① 正相回路の描き方
正相回路は、「平常時の回路そのまま」です。
発電機は普段通りに電圧を発生しているため、回路図には発電機の起電力( E )を描き込みます。インピーダンスは、各機器の正相インピーダンス %Z1 を使います。
② 逆相回路の描き方
逆相回路は、「正相回路から発電機の起電力を取り除き、短絡(ショート)させた回路」です。
発電機が逆回転の電圧を自ら発生させることはないため、電源をゼロとして扱います。
インピーダンスは %Z2 を使いますが、変圧器や送電線などの「回転しない機器(静止器)」では、正相と同じ値になります( %Z1 = %Z2 )。発電機などの回転機だけは値が異なることに注意してください。
③ 零相回路の描き方(最重要!)
零相回路も起電力は存在しないため電源は短絡して描きますが、変圧器の結線方式( Δ結線か Y結線か)によって、電流の通り道が劇的に変わります。
- Y結線・中性点接地あり( Yg ):大地と繋がっているため、零相電流はここを通って大地へ抜けることができます。回路図では「繋がっている(導通)」として描きます。
- Y結線・中性点接地なし( Y ):大地への抜け道がないため、零相電流は流れません。回路図では「断線(オープン)」として描きます。
- Δ結線:Δのループ内を零相電流がぐるぐる回るだけで、外へは出られません。回路図では、そこで「大地へ短絡(ショート)して行き止まり」として描きます。
この結線方式による「零相回路のスイッチの開閉」を正確に図に落とし込めるかどうかが、2次試験を突破する最大の鍵となります。
3. 1線地絡が起きると、3つの回路はどう繋がるか?
それぞれの回路の合成インピーダンス( %Z1, %Z2, %Z0 )を求めた後、これらをどう扱うのでしょうか。
ここに対称座標法の最も美しい結論があります。
「1線地絡事故が発生した点において、正相・逆相・零相の3つの仮想回路は『直列』に接続される」という法則です。
直列に繋がるということは、3つの回路に流れる電流(正相電流 I1、逆相電流 I2、零相電流 I0 )はすべて等しくなります。したがって、オームの法則から以下の究極の公式が導かれます。
$$I_0 = I_1 = I_2 = \frac{E}{\%Z_1 + \%Z_2 + \%Z_0}$$
そして、私たちが本当に知りたい「実際の地絡電流 Ig」は、零相電流 I0 の3倍になるという性質があります。
$$I_g = 3 \times I_0$$
まとめ:地絡計算のアルゴリズム
複雑怪奇に見える1線地絡計算も、分解してみれば以下の作業の繰り返しに過ぎません。
- 単線結線図から、正相・逆相・零相の3つの等価回路を描く。
- それぞれの回路の合成インピーダンス( %Z1, %Z2, %Z0 )を直列・並列計算で求める。
- 3つのインピーダンスを直列に足し合わせ、起電力 E を割って I0 を出す。
- I0 を3倍して、地絡電流 Ig を求める。
次回は、いよいよ具体的な単線結線図を用いて、「変圧器の結線方式による零相回路の変化」を実際の過去問レベルの演習で解き明かしていきましょう!

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